仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/03(木)01:11:19 No.112983

バイクの音が走り去る。

……ああ、行ったのか。今日の奴は……どんなんだっけ。
バイクが喋ってた奴か?
ま良いや、今日もお疲れさん……と。
あれ、痛いと思えば腕取れてるじゃんか。

……この程度で済んで、良かった。


ああ、今日も生き延びることが出来た。


仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/03(木)16:09:57 No.113701

一仕事の後の一杯は美味い。
仕事とは言っても単なる書類整理だ。
一杯とは言っても単なるスポーツドリンクだ。
成人を迎える前に改造されたから、酒は飲まないことにしてる。

「エリマキトカゲのライダーも出たそうだぜ」
同僚が、ドリンクを選びながら話しかけてきた。
「……ガイコツのライダーもアリかな」
「……?」
「いや、実はさ…俺、この組織に入ったのって
ライダーになりたかったからなんだよね。
憧れててさー……人類の自由と平和の為に戦う戦士。
で、いざ改造されたらガイコツの戦闘員じゃん?
脱走する気も無くなってさー………
つーか、気がついたら脳改造されてたんだけど」
「……名前は?」「名前?」
「もしも、ライダーになった時の名前」
「ガイコツ…スカル………スカルライダー…かな?
はは、聞いた事あるような名前ー」

緊急召集のサイレンが、ヘルメットから頭に響く。
コールレッド。……仮面ライダーが現れた。
「…何にしても、生き残らないといけないな」
「戦わなければ生き残れない……ってか」
同僚はドリンクを飲み干すと、マスクの奥で笑ったように見えた。

仮面ライダーになりたかった戦闘員名無し 04/06/04(金)01:33:02 No.114506

「なあ、おい。なんだよ。……おい」
瓦礫の中から、ヘルメットのシリアルを探知して引っ張り出したのは
首だけの同僚だった。
「なんだよ……ライダーになりたいんじゃないのかよ。
なんで……なんで死んでるんだよ!! 何とか言えよお!」
俺が叫んだ瞬間、同僚のヘルメットが起動し、
最後の音声記録を、俺のヘルメットへ転送し始める。

それは、つまり……同僚の断末魔の叫びを。

悲痛で悲惨な最後の声。憧れた存在に殺される男の声。
俺は耳を塞いだ。無意味だ。頭に直接響いているんだから。
「嫌だ、やめろ、やめてくれ!聴きたくない……
こんなのが聴きたいんじゃない、やめろ、やめろお!!」


再生が終わるまで、俺はずっと、同僚の叫びを拒み続けた。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/04(金)16:46:34 No.115192

生きているというのは、どう言うことなんだろう。

目が覚めると、見なれた実験台に横たわっていた。
……またライダーに負けて、回収されたのか。
「ああ、おはよ。
……今回は頭部以外、ほとんど壊れてたから
交換しておいたよ、頭部以外ね」
交換。俺達は壊れたら、別のものと変えられる。腕を取り替えられたり、
同僚の変わりの人間が派遣されたり。
「またか、また勝手に……俺の体なんだぞ!?
好き勝手にいじるな!いじらないでくれよ!」
「……そうだね、確かにあんたの体だよ。
けど……それ以前に、あんたは組織の備品だ。
壊れてもとっかえの効く備品。……あたしも、ね」
「…………」
「分かっててこの仕事選んだんだろ?」

自由にならない世界。
俺は、生きている?それとも、死んでいる?
仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/06(日)00:55:28 No.117427
組織の食堂。…今日は何ごとも無く一日が終われそうだ。
……いつまでこんな生活が続くんだろう。
いっそ富士の樹海にでも行って遭難……
あれ?

「あのーすいません、俺カツカレーじゃなくて普通のカレー頼んだはずなんですが」
「? ああごめん、間違えちゃったかな。
……まあ、サービスって事で。
その代わり、主任には秘密。ね?」

……俺、トンカツ好きじゃないんだけど。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/07(月)01:35:49 No.119113

……今日も一人殺した。汚職をした政治家だ。世界のためだ。
…だけど、慣れない。血の臭いが体に染み着いてる気がして、念入りに体を洗い、
脚の裏の石鹸を洗い忘れてすっころんで大声をあげた。

「あ、やっぱり入ってたんだ」
「……?」
「キミ、カツカレーの人でしょ?さっきお風呂で騒いでた」
「わ、わかるんだ?」
「あはは、あたし記憶容量が拡張されてるから、
人の声は一度聴けば忘れないんだ」
「……へえ」
「ヘルメットって脱げるの?」
「脱げるよ」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/08(火)00:11:56 No.120413

ええと。

「兄ちゃんは元気です。お金が届いてるのがその証拠です。
今、兄ちゃんは遠い国で、難しい仕事をしています。
後3年は日本に帰れません。兄ちゃんが戻る頃には、退院出来てると良いね。
それでは。」
……ふむ。
毎度思うけど、この手紙ってちゃんと届いてるんだろうか。
…届いてなくても、ちゃんと組織が入院費払ってくれてるって信じないとな。
……そうだ。

「追伸。最近兄ちゃん、ちょっと気になる人が出来ました。まる。」

仮面ライダーになりたかった戦闘員名無し 04/06/09(水)00:53:52 No.121889

「あれ、先輩。どうしたんですか?」
「久々にお前をいじめたくなってなぁ」
「うわたた、勘弁してくださいよぉっ」

「実はな、俺今度怪人になることになったんだ。
羨ましいだろ? ……おら、おめでとうくらい言え」
「…おめでとうございます。良いな、どんどん出世してますね」
「……ありがとよ。よし、今日は俺のおごりで一杯やろうぜ」
「はい」

――俺達は知っている。
新たに生まれる怪人は、一週間と持たずライダー達に殺されている事を。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/10(木)00:49:47 No.123012

夢を見た。中学生の頃、始めて付き合った女の子が出て来た。
たった1ヶ月の付き合い。俺は振られた。でも、俺は本気だった。

夢の中で、彼女の首を引き千切っていた。

俺はもしかして、いつのまにか、気付かずに、
大切だった人達を殺しているんじゃないだろうか。
一般人を犠牲にした作戦だってあった。
その中に、好きだった彼女や、次に好きになった人や、
小学校の先生、優しい隣のおじいさんがいなかったなんて、
言い切れないんだ。

……頭が痛い。二日酔いだ……。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/11(金)01:21:47 No.124511

先輩…いや、怪人グランドライオンの雄叫びが、夜空の下響く。
先輩が改造されて、七日。ライダーとの初の戦い。
戦況は……グランドライオンが優勢だ。
圧倒的な力でライダーを叩き伏せるグランドライオン。
いける。これならジンクスも吹き飛ばせる。先輩、とどめです!
……その時、崖の上からバイクの音が聞こえた。
「待てぇい!!」
それは、別のライダーだ。

そのライダーは崖下に飛び降りると、俺達を一瞬で蹴散らし、
満身創痍のライダーに肩を貸し、先輩に向かった。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/12(土)00:35:59 No.125914

「とおッ!」「はぁっ!!」
二人のライダーが、グランドライオンを容赦なく痛めつける。やめろ、やめてくれ。
願い続ける俺の脳裏に、先輩の声が聞こえた。
『……お前のシリアル、これであってたよな?
遺言って奴だ。ええと……そうだな。
とりあえず、こいつらを恨むなよ。こいつらは俺達と違って、
大概の奴らは無理矢理改造されたんだ。それに、お前が挑んだって死ぬだけだ。
……それに、な。こいつらはきっと………
俺達の大切だった奴らを守ってくれる。きっとな」
先輩の体が投げ飛ばされ、星空へ舞いあがる。
「行くぞ!」「おおっ!!」
それを追うライダー達。
『……お前はお前でいろ。
そうだ。俺の名前……言ってなかったな』
「ライダアァーッ!!」「クロス!!」
「キィ――――ック!!」
『ケイ。蛍って書いて、ケイっていうんだ。女みたいだろ。ははh』

大きな爆発が、夜空を照らした――。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/12(土)23:57:35 No.127284

組織内の、屋台。
「恨んでんだろ、あんな弱い怪人にしやがってーって」
「そんなこと……」
……少し、思う。この人が先輩をもっと強い怪人にしてたら、もしかしたら……。
「……あたしだってなー……」「?」
「あたしだって必死なんだよぉーっ!!」「イ、イィーッ!?」
「快心の改造を施してみりゃあっさり負けて、その都度大佐の野郎に小言言われてっ……!
……あたしだって誰も死なせたかないさ!
でもみんな死んじまう…いつだって死なないように最善の改造をしてたつもりだっての……」「……」
「…あんたは死ぬなよ、な」「……」
「返事はどうしたこらぁーっ!!」「イ、イィーッ!!」

……ドクター、すんませんでした。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/13(日)23:45:44 No.128980

「それ、コロッケ?」「うん、買って来たんだ……一個いる? 良いよ、好きなの選んで」
「えーと…カレーコロッケある?」「あ。あー……今食べてるこれ一個だけ……」
「あ、そ、そうなんだ……」「食べかけでよければ…って、さすがにいらないよねえ」
「う……」「………今度あたしが作ったげるってことで、良いかな?」
「あ、ほんとに? じゃあ…」「うん、今度ね」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/15(火)01:26:23 No.130749

どうして、俺の脚はこんなに遅い。改造手術を受けたはずだろうに。

「妹さんが……危険な状態だ、そうだ」
突然、大使から直に伝えられた言葉。
その意味を一瞬考え、いつのまにか、走っていた。
息が切れる。擬態用の汗が流れる。息が、詰まる。

病室の中に、数人の医師と、ベッドに横たわる妹がいる。
妹は俺に気付くと、きっと微笑んだのだろう、顔を歪ませた。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/16(水)00:56:33 No.132078

医師達は、俺が入ると入れ替わるように出ていった。
妹と、色々なことを話す。他愛無いことや、手紙のこと、大切な思い出のこと。
「…ありがとね…血が繋がってないのにね…ごめんね」
「何…言ってんだ」
「夢…いつも、見てた夢でね。お兄ちゃんとかくれんぼしてるんだ。
いつも私が鬼…。全然見つからないんだ、お兄ちゃん……
でも…見つけたよ、やっと。……だから、次は……
ほら、お兄ちゃん……鬼……」
「……」「……ねえ」

「……もーいいかい」

「……もう、いいよ……」

それが、最期だった。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/17(木)01:09:20 No.133492

――もう、良いよ。

何度も心の中で、妹が俺にそう言ってくる。
何がもう良いんだ? もう、こんな仕事をしなくて良いのか。もう、人を殺さなくて良いのか。
……もう、死んでも良いのか?

「はい」「……え?」「カレーコロッケ、お待ちー。…覚えてない?」
「あ、い、いや。いただきます」「……」「……」
一口かじって、ただ出たのは「美味い」の一言。その一言に、彼女は微笑む。

――もう、自分の為に生きて良いよ。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/17(木)19:35:43 No.134334

今日は、組織の祭。俺達はやきそばの模擬店だ。
あれから俺は、とりあえず生きている。

「えーと…今、大丈夫?」「え、あー」「40分。それ以上は待たないぞ」
「良いんですか?」「秒読み開始。残り39分57…」「うわああっ」

囃子の音は遠く。俺は彼女に組織の墓地…通称怪人墓場に連れてこられた。
彼女はある墓の前に立つと、話し始める。
「この人追っかけてあたし組織に入ったんだ。今日がこの人の命日」
組織に入って長い俺も知らない、誰かの墓だった。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/18(金)16:51:37 No.135487

祭の光に、近付いてくる。
「……何を話してたの、その人と」「ん……っと。
その人は、あたしのこと友達としてしかみてなくてね。
あたしが一方的に好きだっただけで。
……けど最後の最後まで好きだって言えなかったんだー……」
彼女は不意に脚を止めて、俺に向き直った。
「好きだったよ、って。さよなら、って言ったんだ。
…………もう後悔したくないんだあたし」「うん」

「あたしはキミが好き」「うん…え?」

その日、俺は、これから先の生きていく理由を見つけた。
俺は、世界の平和を守ろう。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/19(土)23:06:34 No.137473

「いやごめんごめん、なんか俺のカレー遅いと思ったら
カレーコロッケ揚げてたみたいでさあ。
カレーコロッケカレーってなんだってんだよなあ?
まったく……あははははははは」
「この生姜焼き美味いなあ」
「味噌汁も中々だぞ」
「あれ、どうしたんだよ二人ともあははははは」
((怪人になっちまえ……))

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/20(日)22:17:54 No.139069

「あっれぇーっ おっかしーなー?
セッケン忘れちゃったみたいだーあ。
ごっめーん、セッケン投げてくれなぁーい?」
「ん、投げるよー?」

「まあ待てよ。俺らのセッケン貸してやるからさ」
「何なら洗ってやっても良いぜ?隅々まで」
「あ、いや、あの、結構で……ひぎゃあ痛い痛いそれ軽石っってぎああああ
すいませんごめんなさいもう大丈夫ですああごめんなさいやめてくださいやめてイ、イィーッ!!」
「……?」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/21(月)23:05:16 No.140445

「風邪だね。今日はあったかくして寝ること」「あい」
「…にしても、やっぱし生身は不便だな」
「……生身……あたしって、体は普通なんでしたっけ?」
「ああ、あんたら非戦闘人員は脳をちょいといじってあるだけ。
あたしら戦闘人員は、脳以外生身の部分は無いからね。
だからあんたは風邪も引くし……子供も産める。
……って、戦闘員が相手じゃ意味無いか……」
「……」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/22(火)20:40:58 No.141535

「……」
「……」
「……ね、一生懸命人のボタン外してるとこ悪いんだけど」
「な、何?」
「自分のメットは外さないの?」
「……あ。わ、忘れてた……」
「あはは、かわいー」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/23(水)21:45:19 No.142987

「……痛い?」「っん…い、た……い、けど……」
涙目で、俺の頬に手を添える。
「大丈夫…」「無理しないでも…」
「だっ…て、いつも君はもっと痛くて、怖い目に……あってるでしょ?」「……」
「それにくらべたら……全然…なんでもないよっ…」
痛みに耐え、俺を気遣って微笑む彼女。なんだか物凄く申し訳なく、

物凄く、愛しかった。

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/24(木)20:55:19 No.144344

「……あ、ごめん。起こしちゃった?」「いや、俺も今起きたとこ」
「…あのね。夢見たんだ。あたし達と、子供がいる夢。キミの子供。……でも、無理なのかな?」
この組織に入った時は無我夢中…というより自暴自棄だったから、あまり覚えてないけど、
「確か……戦闘員は精子を保管してるんじゃなかったかな」
「……ホント?」「確証は無いけど…今度ドクターに聞いてみるよ」
「うん。…ホントなら嬉しいな…あたし、キミの子供が欲しい」

仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/25(金)16:48:46 No.145500

「はい、じゃあこれおべんと。」
「うん……ああ、嫌だなあ。泊りがけなんて。
なんで別の支部に俺達が物資を届けたなきゃいけないんだ…」
「ほら、ぼやかないのー」
「うう、俺がいない間に浮気なんかしちゃだめだよ?」「あはは、しないよっ」

「だあ、やっぱしここにいやがった!おらお前のせいで俺らの班遅刻扱いだぞ!」
「ぐえ。……うう、いってきまぁす」「い、いってらっしゃい……」