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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/26(土)11:37:47 No.146638
「……ここ、だよな」
俺達はトラックから降り、燃え上がる建築物の前で立ち尽くした。
搬入先のアジトが炎上している。
戸惑う俺達に俺達の所属している本部から通信が入った。
『多くの支部、本部共にライダーによる襲撃。
本部半壊滅状態、
ゴルドウォルフ――大佐、リングヴァイパー――大使、両名戦死。
本部は既に放棄。現在シークレットハイウェイをDに向け移動中。
残存部隊との合流ポイントは――』
――神様。あんたを信じたことはないけど、お願いだから、
お願いだから、お願いだから……!
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/27(日)00:27:07 No.147594
うめき声の響く、緊急病棟への入り口に
入隊式で一度見た幹部が立っていた。
「待ってたよ」「その声…ドクター…ですか。その血は……」
「……ああ、そうか。今変身機能が壊れててね。
暫くこのデモンクラーケンのままだ。
……血は、多少あたしのも有るけど、大概はゲス野郎の返り血。
…そうじゃないだろ。
今あんたが本当に訊きたい事は……」「……」
「ついて来い。……ただし、現実を受け止める覚悟が出来たら、な」
どうして俺じゃないんだ。人を殺してきたのは俺だろ。なあ、神様。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/27(日)16:07:45 No.148487
ガラス越しに見る彼女は、とても、小さく、見、え、る。
「…逃げられないように、足をねじ切られてた。
全身を切り刻まれて……その後、手を食われた。
あたしが見たのはそこからだ。
どこが作ったライダーか知らんが…最悪のゲス野郎だった。
楽しんでた、人を食うのを。食堂の奴らは皆食われた」
「…そのライダーは?」「殺した。バラバラにしてやった。
……それ、あの娘のだよな?」「……は…い……」
「…生きてるのが…不思議だよ、あの娘……」
――人類の自由と平和の為に戦う戦士。
嘘だ。
――俺達の大切だった奴らを守ってくれる。
嘘だ。
だって彼女は人間だったんだぞ。
彼女は俺の、大切な、大切な人だったのに。
「ラ イ ダ ア ア ァ ―――― ッ ! ! 」
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/28(月)01:24:00 No.149487
『諸君ら六名は、栄え有る我らが組織の最終怪人に選ばれた。
この仮宿の位置が彼奴らに知れるのも時間の問題、
諸君らはここに待ちて、彼奴らを返り討ちにせよ』
「……そういやあんたのリクエストは聞いてなかったな。
どんな風になりたい?」
「出来るなら……この姿はあまり変えないでください。そして」
「仮面ライダー、か。はは。あんた以外の五人も、まったく同じ事言ってたさ。
…あーあ、結局あんたら皆、仮面ライダーになりたかったんだねえ。
ははははは、は、は……っ」
「……ドクターは、泣けるんですよね。羨ましいな」
「あたしは最初期だから、余計な人の部分も残ってんだ。
って、ばーか、何言わせる。こんなもん……無くて良いんだよ。っ…よしっ。
今からあたしの全てを賭けて、あんた達を…最高のライダーにしてやるよ。
バイクはないから……ちょっと違うかもしれんがな…っ」
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/29(火)01:25:25 No.150983
支部内を見て周る。似てるけどやっぱり本部とは違う。
同僚と話した休憩所も先輩のおごりで初めて酒を飲んだ屋台も
自室も銭湯も墓地も始めて夜を明かした彼女の部屋もない。
いつ目を覚ますかわからないと言われた、彼女へ、独り囁く。
「…君に逢えて良かった。本当は死んだみんなが羨ましかった……。
死ねば楽になるって思ってたんだ。
…生きる幸せを教えてくれて、ありがとう」
最後の口付けを交し、医務トレーラーの出口へ向かう。
「俺の事は……忘れて良いから」
振り返ることはなかった。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/06/30(水)00:46:48 No.152430
「…何度も言うが、あんたの力はライダー級でも、器自体は殆ど戦闘員だ。
だから、無茶したら途端に崩れるからそれに気をつけろ。……それから…」
「ドクター」「…なんだ?」「彼女はまだ、子供を産めますか?」
「……ああ。でも、あんたの精子は本部と一緒に……」
「俺の子供じゃなくても良いんです」
「ドクター、そろそろ乗車を」「ああ、すぐに行く。……そうそう、言い忘れた。
あんたの事、好きだったよ。
でも、あんたを幸せに出来るのはあの娘だけだ。
そしてあの娘を幸せに出来るのはあんただけだ。
帰って来い。だから、帰って来い。
どんなにボロボロでも、治してやるから…」
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/01(木)00:42:37 No.153907
司令室へは6つのルートのどれかを通らないといけない。
その内の4番ルートが俺がいる場所だ。ここからは、たった独りの戦い。
バイクの音が迫り来る。……来たな。7台のバイクのライトが俺を捉える。
1つのルートに7人ずつ分けたと考えても……42人のライダーの総攻撃か。
「ここを通りたければ、俺を倒して行け」「戦闘員…」
「違う。俺は戦闘員じゃない。
…… 変 身 ……!」
エネルギーが迸る。外見には若干の変化、しかし体の中は別の存在へ。
俺の姿を見て、ライダーの一人が言った。
「その姿は……仮面ライダー……!」
「それも違う。俺は……仮面ライダーじゃない」
そう、俺は――…。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/02(金)00:45:29 No.155357
「俺は」――俺達は――
「お前達に」――なれずに――
「倒された同胞達の」――想いと――
「その“骸の上に立つ者”…」
「――――スカルライダー」
7対1……。そうか。
眼前の彼らはずっとこんな戦いを勝ち抜いて来たんだな。
「…行くぞ、仮面ライダー……!!」
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/03(土)00:58:08 No.156688
「うおぁあああああああ――っ!!」
……ライダーの拳を受け止め、弾き、殴り返す。
蹴りを避け、その脚を掴み投げ飛ばす。
…戦える。俺は……戦えている。でも、痛い、拳が痛い。
こんな大きな力を制御出来ているのか彼らは――。
「なんてパワーだ…しかし、倒れるわけにはいかない……!
俺には、俺達には、守りたい人達がいるんだ!!」
ライダーの一人が腰を落とす。その構えは、何度も見てきた。
数多の怪人を屠った、必殺の技。受け切れるか、俺に……。
いや……受けて立つ!
「……奇遇だな。俺もだよ」
呟き、俺は、全身の力を一点に集中させた。
……右の脚に。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/04(日)01:45:24 No.158218
「ライダァァキィィ――――クッッ!!」
「うおおおおおおああああああッ!!」
中空でぶつかり合う、一撃。全身が軋む。
「ぐっ……あ、が、ああああああッ」
痛い。皆これを受けたのか。右足が悲鳴をあげる。駄目だ、負ける!
「うううううううあああああああああああッ」
負ける……か。負けるか。負けるか! 負けるか!!
「負ぁ けぇ る かぁ あ ー ッ ! ! 」
ライダーのキックを押し返す。俺のキックが相手の胸部を打つ。
勝った。俺の……紛い物のライダーキックが、本物に……!
……着地して、気付いた。右足の感覚が消えている事に。
自らの蹴りのダメージと、相手からのダメージ。
二つが重なり、右脚は言う事を聞かなくなった。
ああ、俺は仮面ライダーじゃないから、無理だったんだな。
それでも戦いは終わらない。立つ事がやっとの俺に容赦無く――――。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/05(月)01:06:33 No.159844
「まだ…立ち上がるのか…!」「…………」
体が熱い。体内のエネルギーが暴走してる。…爆発の前兆なんだろうか。
「…あんた達が勝って守られる人類の自由と平和って何だ?」
……暴走しているのは、どうやら思考もらしい。
「あんた達が勝っても人間は平和を語って自由に互いを殺し合う。
あんた達が勝っても地球の環境が良くなるわけでもない。
なあ、そんなものの為に? なあ、傷つくなよ。
…あんた達が勝っても殺された人間は生き返らないのに。
……病気の妹は治らないし、例えあんた達が俺達に勝ったとしても…。
例え俺達があんた達に勝ったとしても…」
ああ、言葉が滅茶苦茶に紡がれる。何が言いたいんだろう。
わかってるのに。
人類の自由と平和なんて、他人が勝手に言っているだけで、
彼らもただ、大切な何かを守りたいだけなんだって。
俺が守れなかった、大切な何かを……。
「――彼女は俺に…もう二度と微笑んでくれないのに……」
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/06(火)00:56:11 No.161075
体が更に熱を上げていく。ああ、終わる……!
死ぬのは嫌だ。恐い。彼女に逢えなくなる。嫌だ。だけど。
決めたんだ、世界の平和を守るって。
“俺の生きていく世界”の平和を守るって――……!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお……!!」
そのために…この命と引き換えに奴らを爆発に巻き込む――!
たった少しの時間稼ぎにしかならないけど、ただ死ぬよりは良い!
壊れた足で突進する俺の前に立ちはだかる一人の仮面ライダー。
俺とライダーキックでぶつかったライダーだ。
倒せてなかったのか。…ならこいつだけでも……!!
――――…それすらも…出来ずに、俺は…。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/07(水)00:03:22 No.162383
――他の五人の反応も消えてる。俺は――まだ、生きてた。
体はほぼ機能停止。おかげで暴走は止まったみたいだ。
結局俺はライダーに延命させられた。それも無意味で、僅かな時間だろう。
……手が届かない。…無くなっただけで良かったなんて冗談じゃない。
『ハッハッハ。よくぞここまで来たライダーの諸君――』
ああ、ライダー達司令室へ着いたんだな。…ってことは…。
『ここは既に放棄した。壊滅した全ての組織を集め、我は最終結社を生み出す。
だがもう君達と逢うことは無い。ここは後僅かで爆発するのだからな――』
それでもライダーは、多分、何事も無かったかのように生き延びる。
「もう」 俺は 「いい」 死ぬ。 「かい…」
ああ、神様。
やっぱり信じられないけど、何人もの命を奪って身勝手だけど
最期のお願いをさせてくれ。
彼女がいつか俺を忘れて、誰かに微笑む日が来ますように……。
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仮面ライダーになりたかった戦闘員 名無し 04/07/08(木)00:50:57 No.163876
――夢を見ていた。
果て無く青い草原に、ぽつりと樹木が立っている。
その木の下で、小さな男の子が、数を数えていた。
多分かくれんぼの鬼なんだろう。俺は何故かその子に、こう尋ねた。
「大きくなったら何になりたい…?」男の子は屈託なく笑い、答えた。
そうだ。忘れてた。俺は、なりたかったんだ。
ずっと昔から。
男の子が「もう良いかい」と、言うと、草原の向こうから、
微かに声が聞こえた。
男の子は、また数を数え出した。
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